サプライチェーン問題でネジ不足は起きる?事前対策を解説

ネジ不足は、起きます。条件がそろえば、現実に止まります。理由は3つ。原材料の鋼材価格と供給の波。物流と地政学の混乱。そして調達先を1社に絞ったまま放置すること。完成した製品の部品が99点そろっても、特殊ネジが1本欠ければ出荷はできません。だからこそ、欠品が起きてから動くのでは遅い。守るべきは「止めない仕組み」です。複数社購買、安全在庫、代替先の事前評価。この3点を、平時のうちに整える。それが供給リスクへの最短の備えになります。

【この記事のポイント】

外部要因によるネジ供給リスクの正体を整理し、現場で実行できる事前対策に絞って解説します。在庫管理の細かな手法ではなく、サプライチェーン全体をどう守るかが主題です。

今日のおさらい:要点3つ

  • ネジ不足は原材料・物流・地政学という外部要因で起きる。在庫の使い方だけでは防げない
  • 複数社購買とBCPを平時に組む。供給停止後に代替先を探すと、立ち上げに2〜3カ月かかる
  • 全部品を二社購買にするのは非現実的。リスクの高い特注品・輸入品から優先的に手を打つ

この記事の結論

  • 一言で言うと、ネジ供給リスクは「分散」と「事前準備」で大半が消える。
  • 最も重要なのは、止まったら困る部品を先に洗い出すこと。全部やろうとしない。
  • 失敗しないためには、代替先の選定・評価・口座開設を、欠品が起きる前に終わらせておく。

なぜネジ不足は起きるのか:外部要因を分解する

正直なところ、「ネジなんてどこでも手に入る」と思っている調達担当は、まだ多い。規格品ならそうかもしれません。ですが特注品や表面処理付きの締結部品は、別の話です。供給が止まる経路は、おおむね3つに分かれます。

原材料:鋼材の価格と供給の波

ネジの素は鋼材です。線材を冷間圧造して、ねじ山を転造する。その出発点が揺れると、川下のネジまで響きます。近年は円安で輸入鋼材や原材料の輸送費が上がり、国内供給も逼迫しました。コロナ後の需要急増、投機的な買い付け、物流の混乱が重なり、鋼材価格は一時急騰しています。

実は、価格の問題だけではありません。特定の鋼種やサイズの線材は、メーカーが生産ロットをまとめる都合で「次回の圧延まで数カ月待ち」になることがある。よくあるのが、材料はあるのに「うちの欲しい径だけ流れてこない」という状況です。

物流:2024年問題と国際輸送の停滞

国内では、トラックドライバーの時間外労働を規制する「物流2024年問題」が2024年4月から本格化しました。輸送力の不足は、ネジのような小ロット多品種の部品ほど後回しにされやすい。政府も「物流革新に向けた政策パッケージ」で対応を進めていますが、現場の納期はじわじわ延びています。

海外調達なら、さらに変数が増えます。海上輸送のスケジュール乱れ、港湾の混雑、コンテナ運賃の急変。発注から入荷まで、平時で6〜8週間かかる輸入ネジが、混乱期には3カ月超になることもある。ケースによりますが、ここが読めないと生産計画は組めません。

しかも、遅れるときは前触れがありません。前回は問題なく入った同じ品番が、今回だけ「船が取れない」と言われる。担当者から「来週には」を3回繰り返された、という声も現場では珍しくない。納期回答そのものが当てにならない時期が、確かにあります。

地政学:依存先の集中というリスク

PwC Japanグループの調査では、過去5年で地政学リスクが「高まった」と答えた日本企業は82%に達し、過去最高でした。米中対立、重要鉱物の輸出規制、台湾周辺の緊張。締結部品の多くを特定地域に頼っていると、政治の一手で供給が細る。

経済産業省も「地政学リスクを踏まえた製造基盤強化」の検討を進めており、「中国+1」のような調達分散が現実的な選択肢になっています。1社・1国に依存した状態は、もう「安いから正解」とは言い切れません。

供給リスクに備える管理方法:分散と事前準備

ここから本題です。守りの中心は、在庫を厚く積むことではありません。止まらない調達構造を、先に作っておくこと。順に見ていきます。

複数社購買(マルチソース)を、優先順位をつけて組む

2社以上から買う「二社購買」は、供給停止の回避だけでなく、価格交渉や納期の安定にも効きます。理屈は単純で、強い。

ただ、警戒すべき点もある。全部品を二社購買にしようとすると、現場が破綻します。数百〜数千点ある部品の一つひとつに代替先を選び、評価し、口座を開設して維持する。中堅・中小の購買部門に、その人手はありません。だから「全部やる」は失敗のもと。

正解は、優先順位です。止まると製品が止まる特注品、輸入比率の高い品目、単一サプライヤーしかない品目。ここから二社化する。規格品の汎用ネジは後回しでいい。実際、ある精密機器メーカーでは、特注ネジ12品目だけを二社購買に切り替えたところ、翌年の供給停止トラブルがゼロになりました。手間は12件分。効果は全社分です。

安全在庫と代替先評価を、平時に仕込む

安全在庫は、納期遅延や急な注文に備える最低限の在庫です。リスクの高い品目だけ、係数を上げて厚めに持つ。これは在庫管理というより、保険に近い発想です。

そして見落とされがちなのが、代替先の「事前評価」。供給が止まってから新規サプライヤーを探すと、選定・試作・品質確認・口座開設で2〜3カ月は飛びます。その間、生産は止まったまま。「まだ間に合う」と思っているうちに、間に合わなくなる。

平時のうちに、第二・第三の候補を1社ずつでも評価し、いつでも切り替えられる状態にしておく。これだけで、有事の立ち上げが数週間に縮みます。

国内調達・近接調達という選択肢

海外に出した生産を国内へ戻す「リショアリング」が、製造業で進んでいます。背景は、地政学リスクとサプライチェーンの混乱。安いだけでは選べなくなった、という現実です。

締結部品でも同じ。輸入特注ネジを国内の特注対応メーカーに切り替えると、単価は上がることが多い。正直、ここで迷う担当者は多いです。ですが、リードタイムが3カ月から2〜3週間に縮み、急な仕様変更にも応じてもらえる。ある装置メーカーでは、輸入から国内特注へ一部を移した結果、緊急発注の対応納期が約4分の1になりました。単価は上がっても、止まらないコストのほうが安かった、と。

ありがちな失敗と、その回避策

「安い1社」に集約してしまう

集中購買は、平時のコストでは正しい。けれど供給が止まれば、その1社と運命を共にします。一括見積もりで最安にまとめた直後に、そのメーカーが材料難で2カ月停止——という話は、珍しくありません。コストと耐性は、別の物差しで見る。

代替先を「リスト化」しただけで満足する

候補リストはあるのに、評価も口座開設もしていない。これは「準備した気」になっている状態です。いざ発注しようとして、初回取引で1カ月、という壁にぶつかる。リスト化はゴールではなく、スタート地点です。

規格品の感覚で特注品を捉える

汎用ネジと特注ネジは、リスクの質が違います。特注は図面・金型・工程が紐づくため、代替が利きにくい。「ネジだから大丈夫」という油断が、いちばん危ない。特注ほど早く、分散の手を打つべきです。

よくある質問(FAQ)

Q1. そもそもネジ不足は本当に起きるのですか?

A1. 起きます。規格品は比較的安定ですが、特注品・輸入品・特殊鋼種は供給が細りやすい。製品の1部品でも欠ければ出荷停止につながります。

Q2. 複数社購買は全部品でやるべきですか?

A2. いいえ。全品目は非現実的です。止まると困る特注・輸入・単一供給の品目から優先し、汎用品は後回しが現実解です。

Q3. 代替先を探すのは欠品してからで間に合いますか?

A3. 間に合いません。新規選定から口座開設まで2〜3カ月かかります。平時に評価まで終わらせておくのが鉄則です。

Q4. 安全在庫はどのくらい持てばよいですか?

A4. 品目のリスクで変えます。供給不安定な特注・輸入品は係数を上げ厚めに、安定する汎用品は薄く。一律に積むと過剰在庫になります。

Q5. 海外調達はやめたほうがよいですか?

A5. 一概には言えません。コスト面で有利な品目は残し、リスクの高い品目だけ国内・近接調達へ分散する「使い分け」が現実的です。

Q6. 国内特注に切り替えると単価は上がりますか?

A6. 多くの場合上がります。ただしリードタイム短縮や仕様変更対応で、止まらないコストを差し引けば総合的に有利になる例が多いです。

Q7. 中小規模でもBCPは組めますか?

A7. 組めます。全社一括ではなく、重要品目数点から二社化と代替評価を始めれば十分。むしろ範囲を絞るほど運用が続きます。

Q8. 鋼材価格が高いときに発注を止めるべきですか?

A8. 安易な発注停止は供給枠を失うリスクがあります。価格高騰時こそ供給の継続性を優先し、分散で交渉力を確保するのが得策です。

まとめ

  • ネジ不足は原材料・物流・地政学という外部要因で現実に起きる。在庫の運用だけでは防げない。
  • 守りの中心は分散と事前準備。複数社購買・安全在庫・代替先評価を平時に仕込む。
  • 全品目をやろうとしない。止まると困る特注・輸入・単一供給の品目から優先する。
  • 代替先はリスト化で終わらせず、評価と口座開設まで進めておく。
  • 国内・近接調達は単価が上がっても、止まらないコストで総合的に有利になる場合がある。

供給が止まってからでは、打てる手は限られます。まずは「止まると困る品目」を数点書き出すところから始めてください。1社依存の特注ネジを抱えているなら、今が分散を仕込むタイミングです。迷っているなら、まず1品目だけでも代替先の見積もりを取ってみる。それだけで、見える景色が変わります。

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