ネジのダクロ・ジオメット処理とは?高耐食コーティングの特徴

結論から言います。ダクロタイズドやジオメットと呼ばれる処理は、亜鉛とアルミの薄い鱗片(フレーク)を樹脂で鋼の表面に焼き付けた、非電解の防錆コーティングの通称です。めっきではありません。だから水素脆性のリスクが低く、高強度ボルトに使える。この記事では仕組み、電気亜鉛めっきとの違い、膜厚とトルク係数、採用時に確認すべき点までを、設計・保全・調達の判断材料として整理します。

【この記事のポイント】

亜鉛フレーク系表面処理は「電気を使わない」「亜鉛+アルミのフレークがバリアと犠牲防食の両方で効く」「焼き付けるので水素が入りにくい」という三点で、従来の電気亜鉛めっきと性格が違います。
その代わり、耐摩耗性や導電性、袋穴・細目ねじの処理性など、苦手な場面もはっきりしています。商品名で選ぶのではなく、要求される耐食性能・強度区分・締結条件から逆算して指定するのが実務的です。

今日のおさらい:要点3つ

  • 亜鉛フレーク系は「非電解」の焼き付け皮膜。めっき浴に浸けて通電する電気亜鉛めっきとは、成り立ちからして別物です。
  • 水素脆性のリスクが低く、高強度ボルトと相性が良い。引張強さの高い鋼ほど、この差が効いてきます。
  • 膜厚が薄く均一で、トルク係数を管理しやすい。軸力を狙って締める設計では、この安定性が効いてきます。

この記事の結論

  • 一言で言うと、亜鉛フレーク系表面処理は「薄い膜で高い耐食性を出しつつ、水素脆性の心配を減らす」ための選択肢です。
  • 最も重要なのは、商品名ではなく要求仕様(耐食性、強度区分、トルク係数、色、環境規制)で指定すること。呼び名は各社の商標で、中身は仕様書でしか確認できません。
  • 失敗しないためには、焼成温度と部品の焼戻し温度、袋穴やねじ部の液だまり、現場での切断・溶接後の補修方法を、発注前に処理業者と詰めておくことです。
  • 安全に関わる締結部では、規格やメーカー仕様、専門業者の判断を優先してください。

亜鉛フレーク系表面処理の仕組みをかみくだく

「フレーク」は鱗のように重なる亜鉛とアルミの薄片

亜鉛フレークとは、粉末ではなく厚みの薄い鱗片状の亜鉛のこと。これにアルミフレークと無機・有機のバインダー(結合剤となる樹脂)を混ぜた液に部品を浸し、余分を遠心分離で振り切り、その後に炉で焼き付けます。ディップスピン方式と呼ばれるやり方が一般的です。

焼き上がると、フレークが瓦のように何層も重なった膜になります。この重なりが水分や塩分の侵入経路を長くする、いわゆるバリア効果。加えて亜鉛は鉄より電位が卑(イオン化しやすい)なので、傷が付いても周囲の亜鉛が先に溶けて鉄を守る。犠牲防食です。バリアと犠牲防食、二段構えで効くところが特徴といえます。

「非電解」であることが最大の分かれ目

電気亜鉛めっきは、めっき浴の中で部品を陰極にして通電し、亜鉛を析出させます。このとき陰極では水素も発生し、その一部が鋼の内部へ入り込む。これが遅れ破壊(水素脆性)の引き金になります。

亜鉛フレーク系は通電しません。塗って、振って、焼く。プロセスに電解が入らないため、水素が鋼中へ入るきっかけがそもそも少ない。正直なところ、高強度ボルトでこの処理が選ばれる理由の大半はここにあります。

呼び名は商標、中身は仕様書で確認する

ダクロタイズド、ジオメット、デルタプロテクトなど、耳にする名前はいずれも開発・供給元の商標です。同じ「亜鉛フレーク系」でも、六価クロムを含む世代と含まない世代があり、ベースコートとトップコートの組み合わせで性能が変わります。

実は、ここが図面指示で最ももめる部分です。「ダクロで」とだけ書かれた図面が回ってきて、実際にどの仕様を指すのか誰も答えられない。ケースによりますが、締結部品の非電解亜鉛フレーク皮膜については国際規格(ISO 10683など)が整理されているので、規格と要求性能で書くほうが後々もめません。

電気亜鉛めっきとの比較で見えてくる得手不得手

耐食性:薄いのに、条件によっては桁違い

一般に、亜鉛フレーク系の膜厚は電気亜鉛めっきより薄い部類に入ります。それでも中性塩水噴霧試験では長時間の耐食性が示されることが多く、屋外構造物や自動車の足回りなど、塩害を受ける部位で採用されてきました。

ただし試験時間の数値は仕様と試験条件で大きく変わります。カタログの数字をそのまま実環境の寿命に読み替えるのは危険です。比較するなら、同じ試験規格・同じ判定基準(白錆か赤錆か)で揃えて見ること。ここを揃えないと議論が噛み合いません。

水素脆性:高強度ボルトほど差が出る

硬さや引張強さが高い鋼ほど、水素脆性に敏感になります。電気めっきでは、めっき後すぐにベーキング(脱水素焼鈍)を行うのが定石ですが、ベーキングは万能ではなく、時間管理を外すと効果が落ちます。

亜鉛フレーク系なら、そもそも水素を入れる工程がない。強度区分の高いボルトや、ばね性を持つ部品で選ばれるのはこのためです。ただし焼き付け温度があるので、部品の焼戻し温度より高い温度で焼くと硬さが落ちる可能性がある。素材の熱履歴は必ず確認してください。

膜厚とトルク係数:軸力管理をする設計に効く

電気めっきは電流密度の分布に左右されるため、エッジ部が厚く、ねじの谷部が薄くなりやすい。対して亜鉛フレーク系は液に浸けて振り切るので、比較的均一な膜になりやすいという特性があります。膜厚が薄く均一なら、ねじの勘合やはめあいへの影響も抑えられます。

さらに、多くの仕様ではトップコートや潤滑成分でトルク係数(締付トルクと軸力の関係を表す係数)を一定範囲に収める設計になっています。よくあるのが、表面処理を変えた途端に同じトルクで締めても軸力が変わってしまうトラブル。トルク管理で軸力を出している設計なら、処理変更時は必ず締付試験で確認する。ここは省略できません。

苦手なこと:摩耗、通電、そして形状

いいことばかりではありません。膜自体は塗膜に近いので、繰り返しの擦れや打痕には強くない。アース経路として導電性を期待する部位では、導通の確認が要ります。袋穴、深い座グリ、細目ねじなどは液だまりや目詰まりを起こしやすく、遠心分離の条件出しが必要になることも。小物の量産には向く一方、大物や複雑形状では制約が出ます。

採用を決める前に確認したい実務ポイント

使われている場面から逆算する

自動車の下回り部品、太陽光発電の架台、鉄道や土木構造物の締結部、屋外設備のアンカーやボルト類。共通するのは「濡れる」「塩がかかる」「後から交換しにくい」という条件です。逆に、屋内で乾燥した環境なら電気亜鉛めっきで十分なことも多い。過剰品質はコストに跳ね返ります。

図面指示と受け入れ検査で見るところ

指定すべきは、皮膜の種類、要求する耐食試験の条件と判定、六価クロムの有無(環境規制対応)、色調、トルク係数の範囲、そして膜厚の許容。受け入れ側では、外観のムラ、ねじ部の詰まり、フレークの付着不良、荷姿での擦れ傷あたりを見ます。

ケースによりますが、初回ロットは締付試験と塩水噴霧の実測を取っておくと、後のトラブル切り分けが早くなります。

よくある失敗と、その回避

現場で多いのは、施工後に切断・溶接・タッピングをして皮膜を壊してしまうパターン。切り口は無処理の鉄が露出するので、補修用の亜鉛リッチ塗料などで手当てが必要です。もうひとつは、一度締めたボルトの再使用。潤滑成分が削れて摩擦が変わり、同じトルクでも軸力が出ない。安全に関わる部位では、メーカーの指示に従って再使用の可否を判断してください。

よくある質問

Q1. ダクロとジオメットは何が違うのですか?

A1. どちらも亜鉛フレーク系の商標で、供給元と世代が異なります。大まかには、六価クロムを含む従来型と、クロムフリーの後継仕様という位置づけで語られることが多いです。正確な組成と性能は各仕様書で確認してください。

Q2. 電気亜鉛めっきより耐食性は高いのですか?

A2. 同等の膜厚で比べれば、一般に亜鉛フレーク系のほうが高い耐食性を示すとされています。ただし試験条件と判定基準(白錆か赤錆か)で数値は大きく変わるため、同じ土俵で比較することが前提です。

Q3. 六価クロムは含まれますか?

A3. 世代によります。自動車や電気電子分野の規制対応を背景に、クロムフリー仕様が主流になってきました。規制対応が必要な案件では、図面と発注書に明記し、証明書類を求めるのが確実です。

Q4. なぜ高強度ボルトに向いているのですか?

A4. 通電を伴わない工程のため、鋼中に水素が入りにくく、遅れ破壊の懸念を減らせるからです。強度区分の高いボルトほど水素脆性に敏感なので、この差が実務上の選定理由になります。

Q5. 膜厚はどのくらいで、ねじの勘合に影響しますか?

A5. 電気亜鉛めっきより薄い部類で、一般的なねじ公差の範囲に収まる仕様が用意されています。とはいえ細目ねじや小径では影響が出ることもあるため、事前にサンプルで勘合を確認しておくと安心です。

Q6. 色は選べますか?黒にできますか?

A6. 標準はシルバーグレー系ですが、トップコートで黒などの色調に対応する仕様もあります。色を変えると耐食性や摩擦特性も変わる場合があるため、色と性能はセットで指定してください。

Q7. 施工後に切断や溶接をしても大丈夫ですか?

A7. 切断面や溶接部は皮膜が失われ、防錆性能が落ちます。亜鉛リッチ塗料などでの補修が基本です。溶接熱で周辺の皮膜も損なわれるため、可能なら加工後に処理する順序を検討してください。

Q8. コストは高くなりますか?

A8. 単価だけを見れば電気亜鉛めっきより高くなる傾向があります。ただし交換の手間や錆による停止時間まで含めると評価は変わります。屋外や交換しにくい部位では、寿命込みで比べるのが妥当です。

まとめ

  • 亜鉛フレーク系表面処理(ダクロ・ジオメットなどの通称)は、亜鉛とアルミのフレークを焼き付ける非電解の防錆皮膜です。
  • バリア効果と犠牲防食の二段構えで、薄い膜でも高い耐食性が期待できます。
  • 通電しないため水素脆性のリスクが低く、強度区分の高いボルトに向いています。
  • 一方で耐摩耗性・導電性・複雑形状への対応には制約があり、トルク係数の変化にも注意が必要です。

まずは手元の図面を開いて、表面処理の欄が商標名だけで終わっていないか確かめてみてください。要求する耐食条件、環境規制、トルク係数の範囲まで書けているか。そこが埋まっていれば、処理業者との会話は一気に具体的になります。

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