
食品工場の締結部品は、強度よりも先に「異物混入させないこと」と「洗浄に耐えること」で選びます。理由は単純で、ネジ1本の脱落が製品回収につながる業界だからです。この記事は、食品ラインの設備を設計・保全・品質管理する担当者に向けて、材質の選び分け、ハイジェニックデザインの考え方、点検と記録の回し方を整理しました。法令の詳細ではなく、現場で判断するための土台をまとめます。
【この記事のポイント】
食品工場のネジ選定は「異物混入防止」「洗浄・殺菌への耐性」「隙間を作らない形状」「食品接触部の材質」の4点で決まります。SUS304を選んでおけば安心、という発想は塩素系薬剤の前では通用しません。設計段階で汚れが溜まる場所を潰しておくことが、結局いちばん安上がりです。なお、食品接触材料の規制は制度改正もあるため、最終判断は所管官庁の基準とメーカーの適合資料で必ず確認してください。
今日のおさらい:要点3つ
- 異物混入対策は「落とさない」「落ちたら見つかる」の二段構え。緩み止めと検出可能性はセットで考えます。
- 次亜塩素酸ナトリウムを使う環境ではSUS304の孔食リスクが上がる。塩素にさらされる箇所はSUS316系を検討します。
- 形状で決まる部分が大きい。袋ナット、シールワッシャー、丸みのある頭部で、汚れの溜まり場を先に消します。
この記事の結論
- 一言で言うと、食品工場のネジは「強度部品」ではなく「衛生設計の一部」として選ぶべきです。
- 最も重要なのは、洗浄・殺菌に使う薬剤の種類と濃度を先に確認すること。ここが分からないまま材質は決められません。
- 失敗しないためには、緩み止め・検出可能性・清掃性の3つを同じ図面上で同時に検討することです。後付けの対策は、たいてい隙間を増やします。
異物混入を防ぐという発想で締結部品を見る
脱落・欠損を「起こさない」設計
ネジの脱落は、振動と熱サイクルで少しずつ進みます。よくあるのが、モーターまわりや振動ふるい、コンベアの駆動部といった常時振動する箇所での緩み。ここは緩み止めナット、座金、ねじロック剤といった手段を組み合わせます。ただし「絶対に緩まない」締結は存在しません。トルク管理と定期点検が前提です。締付トルクはメーカー仕様と設備メーカーの指示を優先してください。
樹脂製のネジやノブも要注意です。軽くて錆びないのは利点ですが、繰り返し締付や薬剤で劣化し、割れて破片が飛ぶことがあります。実は、金属より樹脂片のほうが厄介という声は現場で少なくありません。透明・白色の樹脂は製品に紛れると発見が難しいからです。
落ちたときに見つかる状態にしておく
二段構えのもう一方が検出可能性です。金属検出機やX線検査機を通る工程では、部品が反応する材質かどうかが効いてきます。オーステナイト系ステンレス(SUS304、SUS316など)は非磁性寄りで、鉄と比べると金属検出機で感度が出にくい傾向があります。加工や曲げで磁性を帯びる場合もあり、挙動は一律ではありません。ケースによりますが、実際に使う検出機で現物を通し、検出限界を確認しておくのが確実です。
樹脂部品を使うなら、検出対応グレード(金属検出機やX線に反応するよう添加剤を配合したもの)や、製品と色が明確に違う青系の材料が選択肢になります。青は食品に自然界ではほぼ存在しない色なので、目視で気づきやすいという理由です。
六角穴という盲点
デザイン性で六角穴付ボルトを選ぶ現場は多いのですが、正直なところ食品ラインとは相性が良くありません。穴に原料や洗浄水が溜まり、乾かず、菌の温床になります。分解洗浄のたびに穴の中を綿棒で掃除している、という話は珍しくありません。頭部が丸い六角ボルトやドームキャップ、あるいは穴を塞ぐキャップの併用を検討したいところです。
洗浄・殺菌に耐える材質をどう選ぶか
SUS304で足りる場面、足りない場面
SUS304は汎用のステンレスで、大半の一般環境では問題なく使えます。問題は塩素です。次亜塩素酸ナトリウム(漂白・殺菌に広く使われる薬剤)にさらされると、表面の不動態皮膜が局所的に壊れ、孔食(点状に深く進む腐食)が起きることがあります。見た目は小さな錆の点でも、内部で進行して割れや脱落につながる。ここが怖いところです。
そこで、塩素系薬剤を日常的に使う区画や、塩分の多い食品を扱うラインではSUS316・SUS316Lが候補になります。モリブデンを含み、孔食や隙間腐食に強い材質です。もちろん万能ではなく、濃度・温度・接触時間しだいで腐食は起こります。薬剤メーカーの適用条件を必ず確認してください。
高圧洗浄とシール性
高圧洗浄機の水は、隙間があれば必ず入ります。入った水は抜けにくく、そこで残渣と混ざって滞留する。これが最悪のパターンです。対策として、ボルト穴を貫通させない、シールワッシャー(ゴムや樹脂のシール材が一体化した座金)で座面を塞ぐ、袋ナットでねじ山の露出を無くす、といった手が使われます。
また、高圧水が直接当たる位置に電装ボックスや軸受があると、シール材の劣化が早まります。締結部品だけで解決しようとせず、レイアウトごと見直したほうが早い場合もあります。
異種金属の組み合わせに注意
ステンレスのボルトを鉄のフレームに使う、といった組み合わせは、水分が介在するとガルバニック腐食(異なる金属が接触して電池のように腐食が進む現象)の原因になります。洗浄水が常時かかる場所では特に進みやすい。同系統の材質でそろえるか、絶縁ワッシャーを挟むといった配慮が要ります。
ハイジェニックデザインとHACCPの運用に落とし込む
隙間・段差・水溜まりを作らない
ハイジェニックデザインとは、清掃しやすく、汚れが溜まらないように設備を設計する考え方です。締結部品では、突起を減らす、座面を面一にする、水が抜ける向きに配置する、といった工夫がこれにあたります。ボルト頭が上を向いていれば水は溜まり、横を向いていれば流れる。その程度の違いでも、日々の洗浄結果は変わります。
溶接やクランプ式に置き換えられる箇所は、そもそもネジを減らすのが最短の対策です。分解洗浄が必要な箇所だけ、工具レスのノブやクランプにする。この切り分けを設計時にやっておくと、現場の負担がかなり減ります。
食品接触部の材質は「確認する」が原則
食品に直接触れる部分の材料には、法令上の規格・基準が定められています。日本では食品衛生法に基づく器具・容器包装の規格基準があり、対象材質の考え方も制度改正で変わってきました。海外向けの製造ラインなら、輸出先の規制も関わります。
ここは断定を避けるべき領域です。「この材質なら食品用として問題ない」と自己判断せず、メーカーが発行する適合証明や試験成績書を取り寄せ、所管官庁が公表している基準に照らして確認してください。判断に迷う場合は、専門業者や検査機関に相談するのが安全です。
点検と記録をHACCPの考え方に沿って回す
HACCPでは、危害要因を洗い出し、重要管理点を決めて監視し、記録を残します。締結部品はこの「異物混入」の危害要因に直結します。実務としては、ライン上のボルト・ナットを図面で番号管理し、本数を確定させておく。始業前と終業後に員数を確認し、緩みや欠品があれば記録して是正する。この地味な運用が効きます。
ケースによりますが、消耗しやすい箇所は交換周期を決めて予防交換したほうが、突発停止より安く済みます。交換履歴が残っていれば、トラブル時の原因追跡も早くなります。
よくある質問
Q1. 食品工場のネジは、とりあえずステンレスにしておけば良いですか
A1. 不十分です。同じステンレスでもSUS304とSUS316では耐薬品性が違います。次亜塩素酸ナトリウムを使う区画や塩分の多いラインではSUS316系を検討してください。使用薬剤と濃度の確認が出発点です。
Q2. SUS316にすればもう錆びませんか
A2. 錆びにくくなるだけで、錆びないわけではありません。高濃度・高温・長時間の接触では孔食や隙間腐食が起こり得ます。薬剤メーカーの適用条件と、実環境での定期観察を組み合わせてください。
Q3. 六角穴付ボルトは使ってはいけませんか
A3. 禁止ではありませんが、食品残渣や洗浄水が溜まりやすいのは事実です。使うなら製品に近い位置を避け、キャップで塞ぐ、または頭部が丸い形状に置き換えるといった対策を検討してください。
Q4. 樹脂製のネジは食品工場に向いていますか
A4. 軽量で錆びない利点はありますが、繰り返し締付や薬剤で劣化し、破片化するリスクがあります。使うなら検出対応グレードや青色材を選び、交換周期を決めて管理するのが現実的です。
Q5. ステンレスは金属検出機に反応しますか
A5. 反応しにくい傾向があります。オーステナイト系は非磁性寄りで、鉄より検出感度が下がりがちです。加工で磁性を帯びる場合もあるため、実機で現物を通して検出限界を確認するのが確実です。
Q6. 緩み止めはどれを選べば良いですか
A6. 振動の大きさ、温度、洗浄頻度で変わります。ゆるみ止めナット、座金、ねじロック剤などがありますが、洗浄薬剤で劣化する接着剤もあります。設備メーカーと締結部品メーカーの仕様を優先してください。
Q7. 袋ナットやシールワッシャーは本当に効果がありますか
A7. ねじ山の露出や座面の隙間を減らせるため、汚れの滞留を抑える効果が期待できます。ただし締付管理を誤ると効果が出ません。トルク管理と、シール材自体の劣化点検をセットで行ってください。
Q8. 点検記録はどこまで細かく残すべきですか
A8. 最低限、部位番号・員数・緩みや欠損の有無・是正内容・実施者と日時があると追跡できます。HACCPの記録要件は業態で異なるため、自社の衛生管理計画に沿った様式に合わせてください。
まとめ
- 食品工場の締結部品は、強度より先に「異物混入防止」と「洗浄耐性」で選ぶ。
- 塩素系薬剤を使う環境ではSUS304の孔食に注意し、SUS316系を検討する。
- 袋ナット、シールワッシャー、丸みのある頭部で、隙間・段差・水溜まりを設計段階から潰す。
- 食品接触部の材質規制は自己判断せず、所管官庁の基準とメーカーの適合資料で確認する。
- 員数管理と点検記録を仕組み化し、HACCPの考え方に沿って回す。
まずは自社ラインで使っている洗浄・殺菌薬剤の種類と濃度を一覧にしてみてください。そのうえで、製品直上にあるボルトを図面で洗い出す。この2つが揃えば、どこから材質を見直すべきかが見えてきます。
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