
締結部品のコストダウンは、単価交渉より先にVE(バリューエンジニアリング)で見直すほうが効きます。理由は単純で、ネジのコストは単価だけでなく、材質・表面処理・加工方法・部品点数・組立工数の合計で決まるからです。対象は設計・調達購買・生産技術の担当者。この記事では、締結部品でよくあるVEの切り口6つと、機能定義からの進め方、そして安全に関わる変更で外してはいけない検証の話をまとめます。
【この記事のポイント】
VEは「安くする」活動ではなく、「機能を落とさずにコストを下げる」活動です。だから最初にやるのは値引き交渉ではなく、そのネジが何を担っているかの言語化。過剰品質・部品統合・加工方法・標準化・組立工数・締結方式そのもの、この6つを順に当てていくと、たいてい候補は出てきます。ただし削減幅はケースによりますし、安全に関わる仕様は検証なしに触ってはいけません。
今日のおさらい:要点3つ
- VEは「機能÷コスト」で考える。機能を維持したままコストを下げるのが原則で、機能を削るのは単なるコストカット。別物です。
- 効くのは単価より「点数」と「工数」。ワッシャー2枚+ボルトを1本のフランジボルトに置き換えると、購買・在庫・組立の3方向で効きます。
- 安全・法規に関わる部位は最後。強度区分や耐食仕様の変更は、規格・メーカー仕様・専門業者の判断を優先し、必ず検証してから。
この記事の結論
- 一言で言うと、締結部品のVEは「そのネジは何のために、どこまでの性能が要るのか」を書き出すところから始まります。
- 最も重要なのは、コストを単価表ではなく「材料費・加工費・処理費・組立工数・在庫管理費」に分解して見ること。単価だけ見ていると、点数削減の効果を取りこぼします。
- 失敗しないためには、代替案を必ず複数出し、安全に関わるものは試験・実機評価をセットで計画すること。図面だけで置き換えを決めない。
締結部品で効くVEの切り口6つ
過剰品質を疑う(強度区分・材質・表面処理)
よくあるのが、前の設計をそのまま流用した結果、要求より上のスペックが残っているケースです。強度区分12.9(引張強さの目安1200N/mm²級の高強度ボルト)が本当に必要か。実は軸力の計算をやり直すと8.8や10.9で足りることがあります。材質も同じで、屋内で腐食環境でもないのにSUS316(モリブデンを含む高耐食ステンレス)を使い続けている、という話は珍しくありません。SUS304、あるいは鉄+表面処理で成立する場面もあります。
表面処理も見直し対象です。塩水噴霧試験の要求時間が実環境に対して過剰なら、亜鉛めっきのグレードや後処理を落とせることがあります。ただしここは要注意。腐食は効いてくるまでに時間がかかるので、机上判断だけで下げると数年後に効いてきます。環境条件(湿度、薬品、屋外か屋内か、異種金属接触の有無)を確認したうえで判断してください。
部品を統合して点数を減らす
ボルト+平ワッシャー+ばね座金という組み合わせを、フランジ付きボルトや座金組込みねじ(セムス)にまとめる。定番ですが、効き方が大きい切り口です。単価だけ見ると統合品のほうが高く見えることもあります。それでも、発注品目が減り、在庫棚が減り、組立時の取り違えが減り、締結1箇所あたりの作業時間が縮む。トータルで見ると逆転する、というのがこの手の常道です。
現場では「部品点数が減ると管理が楽になった」という声が多い切り口でもあります。図面上は1行減るだけ。しかし品目コード、受入検査、棚、ピッキング、すべてに効きます。
加工方法を変える(切削から転造・圧造へ)
ねじ部を切削(削り出し)で作っているなら、転造(材料を塑性変形させてねじ山を作る方法)に置き換えられないか検討します。切りくずが出ないぶん材料歩留まりがよく、量産では加工時間も短い。しかも転造は繊維の流れが切れないので、疲労強度の面で有利とされます。頭部を含めて冷間圧造(常温で叩いて成形する方法)に移せれば、さらに量産向きです。
ただし前提があります。転造・圧造は量産でこそ効く方法で、金型費が必要です。数十本レベルの試作なら切削のほうが安く早い。ケースによりますが、年間数千本を超えるあたりから比較する価値が出てきます。
特注をやめて標準品に寄せる
特注ネジは、長さが5mm合わない、頭部形状が独自、といった理由で生まれがちです。相手側の座面や逃げをわずかに変えるだけで標準品(JIS・ISOの規格品)に収まるなら、そちらのほうが調達も納期も安定します。標準品は複数の供給元から入手でき、欠品リスクも下がる。正直なところ、コスト以上に「いざというとき手に入る」という価値が大きい部分です。
逆に、標準品を無理に使って座金を何枚も重ねる、スペーサーを追加する、といった形になると本末転倒。そこは特注1点にまとめたほうが安いこともあります。
組立工数を削る
締結コストの相当部分は、実は現場の手です。工具が入らない位置にあるボルト、片手で押さえながら締める姿勢、六角穴と六角頭が混在していて工具を持ち替える工程。こうした要素は図面には出てきませんが、時間として毎日積み上がります。
有効なのは、同一ラインで使う工具・サイズを統一すること。M6とM8が混在しているなら、どちらかに寄せられないか。ドライバーの先端形状(十字、六角穴、トルクスなど)が混在しているなら、揃えられないか。工具アクセスの確保は、設計段階でしか手を打てないことが多い項目です。
締結方式そのものを見直す
最後の切り口が、そもそもネジで留める必要があるか、です。分解・再組立の必要がない部位なら、接着、かしめ、圧入、溶接といった方法が候補になります。部品点数はゼロに近づき、緩みという故障モードも消える。
ただし当然トレードオフがあります。分解できないのでメンテナンス性は落ちますし、リワーク(作り直し)もできません。接着は硬化時間と表面処理の管理が要りますし、温度・薬品環境で性能が変わります。「保守のときに開けるか」を先に決める。ここを詰めずに置き換えると、後で泣きます。
進め方と、外してはいけない検証
機能定義 → コスト分析 → 代替案 → 評価
VEの手順はシンプルです。まず機能定義。「M8ボルト」ではなく「板厚6mmの部材を、軸力◯kN以上で、振動下で保持する」という書き方にします。ここを名詞+動詞で書けると、代替案が一気に広がります。
次にコスト分析。単価だけでなく、材料費・加工費・表面処理費・組立工数・在庫管理費に分解します。そのうえで代替案を複数出し、最後に評価。評価軸はコストだけではありません。強度、耐食性、組立性、保守性、調達安定性、そして納期。この6軸くらいで並べて比較すると判断しやすくなります。
安全に関わる変更は「検証込み」で計画する
ここは強調しておきます。強度区分、材質、締付トルク、緩み止め方式の変更は、軸力と安全率に直接効きます。図面上の置き換えだけで済ませてはいけません。軸力測定、締付トルク試験、振動試験(ねじの緩み試験)、必要に応じて塩水噴霧試験。用途によっては法規や業界規格の要求もあります。
「必ず◯%下がる」といった断定もできません。削減幅は数量、加工方法、調達ルートで変わります。判断に迷う場面では、規格・メーカー仕様・専門業者の判断を優先してください。
進めやすいのは「量が多く、安全から遠い」ところ
最初の一手として狙い目なのは、使用本数が多く、構造強度に直結しない部位です。カバー類、パネル、配線固定、化粧部品まわり。ここで手順とデータの取り方を身につけてから、主要構造部に進む。逆の順序でやると、検証コストで止まります。
よくある質問
Q1. VEとコストダウンは何が違うのですか。
A1. VEは機能を維持したままコストを下げる活動です。単純に安い材料に替えて性能も落ちるのはコストカットで、別物。判断基準は「機能÷コスト」の値が上がったかどうかです。
Q2. どの切り口から手を付けるべきですか。
A2. 使用本数が多く、安全に直結しない部位の「部品統合」と「標準品への置換」からが進めやすいです。効果が見えやすく、検証の負担も比較的軽く済みます。
Q3. 強度区分は下げても大丈夫でしょうか。
A3. 軸力と安全率の再計算が前提です。10.9から8.8へ落とすと許容軸力は下がりますから、締付トルクの見直しも必要になります。試験なしでの変更は避けてください。
Q4. 統合品は単価が高いのですが、それでも得ですか。
A4. ケースによります。単価だけなら高くても、品目数・在庫・組立時間の削減が上回ることがあります。1箇所あたりの総コストで比較してください。
Q5. 転造への切り替えはどの数量から検討する価値がありますか。
A5. 一般に、金型費を数量で割れるかどうかが分岐点です。年間数千本規模から比較の価値が出ますが、形状と材質で変わるので個別に見積もる必要があります。
Q6. 表面処理のグレードを落とすときの注意点は。
A6. 実際の使用環境(屋内外、湿度、薬品、異種金属接触)の確認が先です。腐食は数年かけて出ますから、短期の試験結果だけで判断しないこと。
Q7. 接着やかしめに替えると、本当にコストは下がりますか。
A7. 部品点数と組立工数は下がる傾向です。ただし分解できず、リワークも不可。保守で開ける可能性がある部位では、そのデメリットが上回ることが多いです。
Q8. 提案が社内で通りません。何が足りないのでしょうか。
A8. 多くの場合、比較データと検証計画です。代替案を最低2案、コストの内訳、評価6軸の比較表、そして誰がいつ検証するかまで書くと通りやすくなります。
まとめ
- 締結部品のVEは、単価交渉ではなく機能定義から始める。「何を、どこまで」が言語化できれば代替案は広がります。
- 切り口は6つ。過剰品質の見直し、部品統合、加工方法の変更、標準品への置換、組立工数の削減、締結方式そのものの見直し。
- コストは単価ではなく、材料・加工・処理・組立工数・在庫管理に分解して比較する。点数削減の効果は単価表に出てきません。
- 安全に関わる変更は検証込みで計画し、規格・メーカー仕様・専門業者の判断を優先する。削減幅の断定はしない。
まずは手元の図面から、使用本数の多い締結部を10箇所ほど抜き出してみてください。そこに「この部位の機能は何か」を1行ずつ書いていく。それだけで、明らかに過剰なもの、統合できそうなものが浮かび上がってきます。
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